キミを描きたくて




それから日はあっという間にすぎて、隼人くんと約束の花火の日になった。

今日だけは、全てを忘れて絵の題材というものに執着していい日だ。

…いや、そんな毎日だったか。


「お待たせ〜、暑いのに待たせてごめんね」


浴衣を着た隼人くんがパタパタと待ち合わせ場所に歩いてくる。
私も今日は浴衣を着付けて、わざわざメイクまでした。

そう、わざわざ。

これは、心が隼人くんに向いている証拠でもあって、よく見られたいという欲望の塊でもある。

醜い。


「ううん、全然」

「人凄いね〜、迷子にならないように手、繋いどく?」


悪戯っぽく笑うのは、隼人くんのいつもの冗談だ。
でも今日はそれを知らないふりをして、手をそっと握る。

彼はかすかに目を見開いたかと思うと、ふふっと微笑んだ。

その笑みに、さっきまで醜さしか無かった心が浄化されていくのを感じる。


「珍しいね、依茉ちゃん。」

「迷子になったら、困るし」

「たしかに。可愛い依茉ちゃんだから、きっとすぐにほかの人に取られちゃうだろうね」


街には張り詰めるほどの人と、たくさんの屋台が煌びやかに並んでいる。この光すらも、私は絵に写したい。