キミを描きたくて

「依茉にとって、何が幸せ?」

「幸せ?…幸せ、か」


絵を描いて、素敵な家族がいて、友達もいる。
そんな日常さえ送れれば、私には文句なんてなかった。

でも、私には家族なんてものがない。

あれだけ思い焦がれた兄と血は繋がっていないし、母も父も離婚してしまったし。

私の想像する家族像はなくて、そんな幸せは求めたってどこにもない。


「…樹がいて、絵さえ描ければ、私には何も必要なものなんてなかったよ」

「そんなに、大事な人なんだね」

「きっと樹を超えて大事にできる人なんて、私には勿体ないよ」


紫月くんがぎゅっと私の手を握る。
それは、まるで俺といることが幸せだ、なんて伝えるように思えて。

そこに何となく、気持ち悪ささえ感じた。


「紫月くんは、何が幸せなの?」

「依茉が俺のものでいてくれれば、俺は幸せだよ」


悲しそうに笑う。
…悲しくなるくらいなら、最初から求めなければいいのに。

無理矢理つなぎとめることしかできないのなら、早く手放してよ。

そう思っても、私の口はさっきよりも上手く動いてはくれない。


「依茉、愛してるよ」


頬にそっとキスされる。
私は早く、翼を生やして天使のように、どこかへ飛び立ちたかった。