キミを描きたくて

やがて紫月くんは泣き止むと、私から身を離し、一通の手紙を見せる。

それは、確かに宮崎さんから受け取って、彼に渡したものだった。


「…デートしないと、私をいじめる…」

「俺は、依茉だけだから」


ソファに座る私にピッタリと引っ付くように座ると、彼はくんくんと私の匂いを嗅ぐ。

そして眉間に皺を寄せ、私を睨んだ。


「ハヤトクン、でしょ」

「…そうだよ」

「俺より、やっぱあいつの方がいいわけ?」


そう言われて、よく考えてみる。

善し悪し、なんて私には決められないくらい彼は素敵な人で、私が推し量るには申し訳ない。

私に似合うわけもない人で、彼がいいと言ったところでどうしようも無いが、きっと私は彼に惹かれている。

いつも笑顔で話を聞いてくれて、描かせてくれて、隼人くんは想いを返す訳でもない私に、尽くしてくれる。


「…さあ、考えたこともないよ」


口から出たのは、そんな明らかな嘘。
そんな嘘と現実に嫌気がさして、目を伏せる。


「そう、ならいいけど」


紫月くんが私の肩に頭を乗せて、寄りかかる。
少し重たくて、離れて欲しいとさえ思う。


「…花火、本当に俺と見たくない?」

「……」

「そう、わかった」


何も答えない私にそう返事をすると、彼はすっと離れた。