キミを描きたくて

またアイスコーヒーを一口飲むと、苦味が口の中に広がる。

その苦味が私の痛みかのように体に広がる感覚がする。


「辞めちゃいなよ、そんな男」

「やめる…か」

「似合わないよ、あんな男。こんなに依茉ちゃんは綺麗で素敵なのに」


まるでそれは、俺こそが似合うと聞こえる。
でもきっと、隼人くんこそ私には似合わない。

こんなに優しくて心が澄んでいて、他人の悩みを真剣に考えてくれる。

そんな彼に、絵にしか関心のない、描くことでしか表せない私はレベルが段違いだ。


「依茉ちゃんを笑顔にするのも泣かせるのも、全部僕がいい」


細くて長い指が私の頬に触れる。
その温かさは、ひんやりとした私の頬を温めてくれる。


「…なんてね、困らせちゃった。ごめんね」


少し悲しそうな顔をする。
彼に応えられたら、どれだけ楽なことか。

絵でしか感情の表現ができない私には、不器用な伝え方しか分からないから。

何も伝えてあげられないし、伝えようという意思すら湧かない。


「…美味しいよ、チーズケーキ」

「ほんと?ふたつ入りのみて、すぐに依茉ちゃんが思い浮かんだんだ。」

「うん、ほんとうに、おいしいよ」


また涙がこぼれる。
彼はそんな私の涙を優しく指で拭った。