キミを描きたくて

「…機嫌の、取り方?」

「例えば…そうだなあ。僕は勉強が上手くいかなかった時、好きなだけゲームをして気分転換するよ。依茉ちゃんだったら、絵が行き詰った時にケーキを食べに来るみたいに」


そういえば、最近はもうおすすめケーキを頼むことはなくなった。

コーヒーだけ飲んで、ひたすら絵を描いて。
コーヒーがなくなったらまた注文して、ひたすら筆を走らせるだけ。


「きっと、自分を護る壁が、もう脆くなっちゃってるんだよ」


思い返せば、素直にならなきゃと思い始めたあの日からのような気もする。

美桜ちゃんにすら話さなかった兄のことを話してみたり、スケッチブックを見せてみたり。

人間観察のためにショッピングモールに行きたいと言ったのもそうだ。


自分で、なれるはずもないのに素直になろうと思ったからだ。


「依茉ちゃんは人と一定の距離を保ちたいんだよね?だから、何かイレギュラーが起きて近づかれた時に、パニックを起こしてしまう」


そう真剣に分析する隼人くん。

その横顔はとても整っていて、また描きたいとすら思わせる。


「自己防衛は大事だけど、時には攻撃を受けてみるのも手なんだよ」