キミを描きたくて

「あれだけ強引だったくせに自分はほかの女の子と遊ぶなんて、それは苦しいに決まってる」

「…でも」

「それに、依茉ちゃんは高望みなんてしたことないでしょ?もっと貪欲になっていいんだよ」


それが人間だよ、と真剣な目で私を見つめる。

貪欲に、なる。
非常に欲深くなって、むさぼって、飽くことを知らない様子。

確かに、絵に関しては貪欲だ。
何もかも描きたいし、どんな線も、どんな影も、どんな感情さえも描きたい。

それ以外、私は望んだことなんてなかった。


「無理しないで。今は僕だけだから、好きなだけ泣けばいいし、好きなだけ愚痴をいえばいいよ。落ち着くまで、ずっと一緒だから」


隼人くんの暖かい手が背中に触れる。
よしよし、と優しく小声で言いながら、泣く私の背をさする。

ああ、これだ、私の求めていたのは。

私はもっと望んでいいと、好きなように感情を出していいと、認めてもらいたかったんだ。

いつも都合よく考えて自衛して、立ち向かうこともしなければ自発的になにかする訳でもない。

ひたすら自分を護り続けるだけ。


「依茉ちゃんはきっと、自分の甘やかし方を知らないだけなんだよ。自分の機嫌の取り方がわからなくて、自暴自棄になるしかない」