キミを描きたくて

隼人くんの家に着くと、彼は慣れた手際で素早く買ったものをしまう。

部屋は柑橘系のいい香りがして、隼人くんにピッタリな部屋だと思った。


恐らく、1LDKの少し大きめの部屋。
父は医者だと言っていたし、仕送りは十分にあるんだろう。


「ケーキ買ってきたんだ、食べながら話そう」


隼人くんがにこりと笑う。
今日は依茉ちゃんの好きなチーズケーキだよ、なんて笑って。

今の隼人くんになら、なんでも話せるような気がした。

そう考えているうちに、コーヒーのいい香りを漂わせて隼人くんがソファーに座る。

私もその隣に座ると、アイスコーヒーを一口飲んだ。


「それで、なんであんな所にいたの?」

「…紫月くんが、前にラブレターを渡した女の子と一緒にいるのを見ました」


"逃がさない"。
そう宣言したはずの彼は、好き放題している。

なら私もしたっていいはずだ。
別に逃げたわけじゃないし、先にそうしたのは向こうだし。

そんな人と美しい花火を見上げられる気もしないし、台無しとさえ思ってしまう。


「もうどうでもいいと思った。あの男たちに何されようが、もう」

「ダメだよ、そんな自分を無駄にしちゃ。」


チーズケーキをひとくち食べる。
ほのかな酸味と甘味が、今の私の心を癒してくれる。