キミを描きたくて

電車に乗ると、席が空いていなかった。
かと言ってほかの車両に移るのも面倒で、吊革を2人で掴む。


「...届いてる?」

「とっ、と、届いてますよ...た、たぶん」

「......おいで」


会長が抱きしめるように片腕で私を引き寄せる。
吊革を背伸びして持つよりも、安定している。

...甘い匂いがする。

なんか、女子の香水みたいな...


「大丈夫?僕臭くない?」

「すごい、甘い匂いがします」

「...そう、臭くないなら良かった」


しばらく僕に掴まってて、そう言う。

届かない私のためにやってくれてるんだと実感して、なんだかうれ、し...い...?

“うれしい”?

それは、吊革が掴めない私の支えになってくれてること?

...それとも、私のためだということ?


頭の中がぐるぐるする。
考えるのをやめよう。酔ってしまいそうだ。


「いつもこの時間に乗ってるの?」

「え?あぁ...はい」

「ふぅん...そう」


もっとこっち、なんてさらに腰を引きつける。
すぐそこに会長の胸板があって、目を逸らす。


「...照れてる?耳まで真っ赤」

「や、やめてください...」