紫月くんが家の前まで送ってくれて、手を振る。
…内心、父のことでいっぱいいっぱいだった。
父が来るなら母も来るはずだ。
スケッチブックが見つかってしまえば、きっとまた叱責される。
まだこんな下らないものを、って。
「はあ…嫌だなあ」
エレベーターをおりる。
まだ外はほんのり明るい。
…買い出しだって行かなきゃいけない。
でもそんな気力は残りやしない。
父と母の板挟みを食らう体力だけは残しておかなければならない。
…連絡だけ、しておこうかな。
そう思ってタップするのは、隼人くんとのトーク。
依茉《父が、来るみたいです》
ものの数秒で直ぐに既読が着く。
隼人《なにかあったの?》
《お父さん帰ったら連絡して》
《話なら、聞くから。》
そうポンポンと返してくれる。
隼人くんは、いつだって返信が早い。
玄関に入って、ドサッとスケッチブックの入った紙袋を投げ捨てる。
…いやいや、これも隠すんだった。
そう思ってすぐに自室のクローゼットを開く。
クローゼットの中には、大きな本棚があって、そこには今まで描き古してきたスケッチブックが、100冊以上詰まっている。



