キミを描きたくて

荷物だけ置いて、早々にアトリエを出る。
かえろ、なんて言う紫月くん。

私も、少し久々に人の多い所へ行って疲れた気分だ。


「今日は泊まるんですか」

「…敬語。泊まっちゃダメ?」

「別に____」


いいよ。そう答えようとしていたところに、運悪く私の携帯が鳴る。
電話の先は、父親だった。

…これは、珍しい。
出なきゃ、と紫月くんに距離を取り、通話ボタンを押す。


「もしもし?どうしたの、急に電話なんて__」

《今年は、帰ってこい》

「え?帰ってこいなんて急な」

《…わかった。今日の夜、そっちに行く》

「はい?どうしたの、そんな切羽詰って」


大事な話があるから、そう言い残して電話を切る父。
…夜、てことは、あと少ししかない。


「無理そ?」

「すみません、父が来るらしくて…」


"大事な話"。
父は家族の話をする時、決まってそう口にする。

…樹が、帰ってくるとか?

そんなわけないか。
だったら母が嬉々として電話してくるはずだ。


「お父さんは、仲良いの?」

「うーん…別に。普通くらいじゃない?」


そんなに、幼い頃父と会話した記憶が無い。