キミを描きたくて

このままじゃ、私の中の樹は思い出だけになってしまう。

思い出なんかじゃない。樹は今だって生きているんだから。記憶をなくしても、きっと…


「はやく、はやくかかなきゃ」


忘れないうちに、いつか記憶が薄れてしまう前に。
ああ、そういえばお兄ちゃんいたなあ、ってならないように。

私の中の樹を、留めておくんだ。


……ちがう。

私は、素直になろうと思ったんだ。
だからああやって隼人くんに言われた通り…会長に全て、伝えた。

会長はそんなどす黒い私を重く受け止めてくれた。
重く、快く。


「空気、吸わなきゃ」


落ち着かなきゃ。
そう思って、ベランダに出る。

夏ということもあり、暑いが、それでも今の私にとっては涼しく思えた。


「…実家も、帰らなきゃな」


思い出すのは母の電話。
母は、未だに私が絵を描き続けていることに納得していない。

昔は、樹さえ立派になれればと言っていたのに。
…標的が変わってしまった。

9階から見下ろす景色。
下にはコンクリートがあって、落ちたら一溜りもないだろう。


"逃がさない"。


私は、どうしたら、もっと樹のように自由に羽ばたけるのだろう。