キミを描きたくて

息をゆっくり吐けと伝えて、背中をさする。
…俺の、何倍も小さい背中。

"イツキ"は、そんなに俺に知られたくないくらい、大事な男なのか。
"ハヤトクン"はあんなにすんなり答えたのに。

なんで、なんで彼氏の俺に隠そうとするんだ。
なんで、ありとあらゆる情報網を駆使しても、掴めない男がいるんだ。

泣き止むと、ぽつりと話し出す。


「樹は、私の、兄です」


…兄。

早見依茉の、海外留学に行ったはずの、兄。
そういえば名前すら調べてなかったな…


「……5年前…もう、5年前に居なくなったっきりの、私の唯一の兄です」


依茉は思い出したかのようにカバンを漁り、1冊のスケッチブックを手渡す。
そこには、依茉とそっくりの、男の顔があった。


「…これが、イツキ?」

「はい。…もう今は、顔も変わっているでしょうけど」


"思い出せるほどの記憶"。
そうか、絵にするほど、色濃く…

でもまだ、なんか腑に落ちない。

だって依茉は、俺に服だってほぼあげたはずだ。


「じゃあなんであの日、"もう使わない"って服渡したの?」