キミを描きたくて

「依茉ちゃん!」


そう馴れ馴れしく依茉の名前を呼ぶ男…阿部隼人に、腹を立てただけだった。

最初は、それだけだった。

丁寧にクラスメイトから受けとったであろう俺宛のラブレターだけ渡して、あの男の車に乗り込むことだって、まだ我慢できた。


…いや、我慢できなかったから、俺はあのマンションで待ち伏せしていた。


「…依茉、俺に隠してることあるよね」

「え?」

「ハヤトクンだけじゃなくてさ。別の男もいるよね」


明らかな、動揺した顔____黒だと思った。

家に入ってどんどん追い込んだ。
ソファーに乱雑に押しやって、両肩を掴んで上から見下ろして。

…顔に全面に出る恐怖。
それすらも、愛おしいとすら思えた。


「言えよ、隠してること全部。」

「ちょっと待ってください、隠してることなんて」

「イツキ。お前が寝てる間にずっと呼んでた男」


そういうと、先程より目を見開いて、なんで知ってるんだ、とでも言いたげな顔をする。


「い、つき、は…」


歯切れの悪い依茉。
腹が立って、イライラしてくる。

言えばいい。素直に、「浮気してました」って。

途端に泣き出して、過呼吸になる依茉。
泣きたいのは、こっちなのに。