キミを描きたくて

「…樹は、ちゃんとここにいたら、帰ってきてくれるから」

「ふうん…」

「ご飯食べて、病気にならなければ…いつか大きな美術館に私の絵が飾られれば、きっと思い出してくれるから」


また、涙がぽたりと落ちる。
もちろん、もう帰ってこないことは理解している。

…けれど、心の奥底にはどす黒い感情ばかり募っている。


「じゃあなんであの日、"もう使わない"って服渡したの?」

「それ、は…」


なんで、なんでなんでなんで。
なんでそんなに、追求するんだ。

私のことに、私とお兄ちゃんのことに、首を突っ込んでくるな。

何も知らないくせに、兄はまるで死んだかのように思えと、私物の処分は任せると言われた私の気持ちなんて知らないくせに、なんでそんなこと言えるんだ。

言っちゃいけない、言ったら終わってしまう。

ひとりじゃないこの環境が、終わってしまう。




「会長には、わかるはずないですよ」



ダメだ、言っちゃダメだ。



「なんでも与えられてきたであろうあなたに」



早く、早く抑えなきゃ。



「樹は、私にとって唯一無二なんです」



絶対、言っちゃいけないのに。




「ああ、会長には沢山代わりがいますもんね」