キミを描きたくて

「…落ち着いた?」

「は、はい…すみません、取り乱して」


あれから30分。
彼はお水まで用意してくれた。


「話せる?イツキって男のこと」

「…樹は、いつき、は…」

「早くして。もう落ち着いただろ」


ソファーに座り込んだまんまの私。
そして、少し距離の空いたところに座る彼。


「樹は、私の、兄です」

「…兄?」

「……5年前…もう、5年前に居なくなったっきりの、私の唯一の兄です」


ふと美桜ちゃんとの会話を思い出して、カバンからスケッチブックを取り出す。
いつの日か、書いた樹の顔を見せる。


「…これが、イツキ?」

「はい。…もう今は、顔も変わっているでしょうけど」


会長がスケッチブックをペラペラとめくる。

私が思い出せる、あの日の兄。
病気になったら怒る、飯をちゃんと食えと散々叱ってた兄。

ねえ、樹。
私お弁当毎日作ってるし、朝ごはんも夜ごはんもちゃんと食べることの方が多いよ。

…手紙送る約束、ちゃんと守ってよ。


「でも、いつかはきっと帰ってくるから」

「5年も帰ってきてないのに?」


鋭い目がこちらに向けられる。
…わかってる、わかってるんだよ、本当は。