キミを描きたくて

「っ、あ…あぁ…いつき、樹は…」


涙が溢れる。
なんて言えばいいんだ。

"もう会うことの無い唯一の兄"。

いや、そんなことない、そんなはずない。
きっと、樹は、お兄ちゃんは絶対に帰ってきてくれる。

たくさんの素敵な写真を見せて、手紙を送れなかったことをきっと謝罪するはずだ。


「…なんで泣くんだよ、お前が」

「…樹、は…」


苛立った会長が頭を掻き毟る。
違う、私は怒られるようなことをしていない。

別に、隠していた訳でもない。
言うような、言えるような事じゃない。

美桜ちゃんには伝えたことがあるが、会長に伝えられるとは到底思えない。

"帰ってこない兄をずっと待ち続けて、絵を描き続けている"。

なんて、なんて言えばいいんだ。


「…泣いてないで答えろよ。なあ。」

「…っ、か、いちょ…」


過呼吸のような感覚に陥る。
吸おうとしても息が吸えなくて、でも吐ける訳でもなくて。


「チッ、息はけ、ゆっくり」

「はぁ、っはぁ、…はぁ、っ」

「…そう、ゆっくりでいいから」


そう背中を撫でる彼の手は、苛立ちを隠して、とても優しかった。