百合は状態が安定した後、血液内科の病棟へと転棟していった。一連の事件の真相は百合本人の口から医師や師長らへと告げられ、これからは精神科医の介入も行うことが決まり表立って大きな問題とはならずに済んだ。

とはいえ、もちろんその日受け持ちをしていた雛子は患者への監督不行届として重大なアクシデントを起こしたことで始末書は免れなかったのだが。


「真理亜さん、お世話になりました……お疲れ様です……」

「ありがとう、雛子ちゃん」

日勤の終わり、真理亜の最後の出勤日に、雛子がステーションで花束を渡す。

皆口々に別れを惜しむ言葉をかけ、真理亜は一人一人丁寧に別れの挨拶を行う。

「ねぇ雛子ちゃん、あなたはこれから人として、看護師として、もっともっと魅力的になれるわ。頑張ってね」

「真理亜さん……」

雛子は泣きそうになるのを何とか堪え、懸命に頷いてみせた。

真理亜がふと横を見ると、他のスタッフの輪から少し離れたところに立つ恭平と目が合った。

「あなたも、ありがとう」

そっと近付き、耳元で礼を述べる。

「……おう」

短い返事を聞き、てっきりそれきりかと真理亜が恭平の側を離れようとした時。

「……お前、心の整理が付いたらきちんと医療現場(ここ)、また戻ってこいよ」

その言葉に、真理亜は驚いて目を見開く。

「真理亜には似合ってるよ、『白衣の天使』」

「あはっ」

恭平らしからぬその単語に、真理亜は心からの笑みを浮かべた。

「本当にありがとう、恭平」












白衣の天使編【fin.】