…ついていけない。

この人についていけるんだろうか、と不安に思いながらここに来たけど。

やっぱりついていけない。

すると。

ルームメイトが、呆然としている俺に振り向き。

「あ、ルーシッドさん」

「は、はいっ!?」

「俺の会員、まだ外に控えさせてるんで。荷物片付けるのに必要なら、使って良いですよ」

使う!?

若い女性を、そんなモノのように。

俺には、とても彼女達に自分の荷物を運ばせるなんてこと、出来ない。

そもそも、そんなに運ばせるほど、たくさん荷物持ってる訳じゃないし。

「い、いえ…。じ、自分で片付けます…」

「そうなんですか?変わってますねー」

あなたにだけは言われたくない。

と、思わず口に出さなかった自分を褒めたい。

こんなところで、この人と大乱闘なんて起こしたら。

この人の鎌の一振りで、マンションごと破壊されそう。

あまりの価値観の違いに、呆然としていると。

「ルーシッド様、お待たせしました」

「あ、はいっ」

先程「お仕置き」とやらを申し付けられた女性が、俺の分の紅茶を持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます…」

感謝の言葉を述べると、彼女は、

「いえ、主様のご命令ですから」

…ですよねー。

「エリュシア」

「はい」

ルームメイトが、その女性の名を呼んだ。

この人、エリュシアって言うんだ…。

「今日中に片付けを終わらせるように。他の会員にも言いつけておいてください」

「畏まりました」

エリュシアと呼ばれた女性は、まるで下僕のように、指示された通り他の女性達のもとに向かった。
 
…。

「…あ、ルーシッドさん」

「はい!?」

「今の下僕、メイド代わりにうちで使うので。用事があるなら、何でも言いつければ良いですよ」

「…」

…下僕呼ばわり。

駄目だ。

ルームシェア初日にして、完全についていけてない。

ルレイア・ティシェリー。

全身真っ黒な衣装を身に着け、胸に青い薔薇のブローチをつけた、ルティス帝国の生きた死神と呼ばれる男。

彼は常識の外にいる人物である。

そう聞いてはいたけれど、まさかここまでとは。