――――――…俺の名前は、ルーシッド・デルマ・スヴェトラーナ。

帝国騎士団四番隊隊長である。

今年の春から、俺は帝都にある、国内屈指の難関大学、王立ルティス帝国総合大学に入学することになった。

学生生活を始めるに至って、俺はとある人物と共同で、マンションを借りることにした。

ルームシェアという奴である。

とりあえず、ここまでは良しとしよう。

いや、ここまででも、充分ツッコミどころは満載だと思うけど。

ここまでは良いということにして欲しい。

何故なら。

俺にとっては、もっとツッコみたいことがあるからである。

それは、今日から俺のルームメイトになる、とある人物に帰来する。

「あ、それはそこの部屋に。そっちはチェストに収めて…。…車?あぁ、この間会員が貢いできたアレですか?要らないんで持って帰ってください」

「はい、ご主人様」

「畏まりました」 

リビングルームに(俺に無断で)設置された、超ゴシックな真っ黒のソファに腰掛け。

彼は、悠々と足を組み、大量の荷物を持った女性達を、指で指図していた。

そう、女性達を、である。

あんな重そうな荷物、女性に運ばせて、自分は手伝いもせず指図するだけで、悠々自適と座っているなんて…。

…それどころか。
 
「主様、紅茶をお淹れしました」

「あぁ、御苦労」

モデルでも出来そうなほどの美女が、彼の足元にかしずき。

彼の前に、そっと紅茶のティーカップを差し出した。

まるで下僕と王様だ。

更に。

「…ん?ルーシッドには淹れてやってないんですか、紅茶」

「はい、主様の分だけ…」

「この愚図」

折角紅茶を淹れて持ってきてくれた女性を、あろうことか酷い言葉で罵倒。

「彼は今日から、俺の大事なルームメイトですよ?俺と同じく、仕えるべき存在でしょう」

「申し訳ございません、主様」

「これは後で『お仕置き』ですね。夜になったら、俺の部屋に来るように」

「ありがとうございます」

何の話?

何の話をしていらっしゃるんですか?

夜にあなたの部屋で、何のお仕置き?

するとその女性は、くるりと俺の方を向き。

「ルーシッド様、今すぐ紅茶をお淹れします」

「え、いやそんな、紅茶なんて良いですよ」

「いえ、主様の命令ですので」

「…」

テキパキと、キッチンに向かう女性。

…を、一瞥もせずに、優雅に紅茶を啜るルームメイト。

…もう、呆気に取られるしかない。

「…あ、そうだルーシッドさん、ウォークインクローゼットは俺がもらうんで、宜しく」

「え?あ、はい…」

俺は別に、ウォークインクローゼットが必要なほど、衣装持ちではないので。

普通の、一人暮らし用の簡単なクローゼットがあればそれで事は足りる。

いや、そんなことより…。

「ご主人様、こちらの荷物は」

「あぁ、そっちの部屋に」

「ご主人様、こちらは」

「まぁ適当に片付けといてください」

「畏まりました」

ぞろぞろと、荷物の片付けに勤しむ大勢の女性達。

それどころか。

「ご主人様、お疲れではございませんか?マッサージでも…」

「そうですね。宜しく」

「ありがとうございます。では、失礼して…」

ルームメイトの足元にかしずき、彼の足を、まるで宝物でも扱うように丁寧にマッサージする女性まで。

そこまでしてもらっているのに、ルームメイトは興味なさそうに紅茶を啜るだけ。

…その姿は、まさに…ハーレムの王であった。