全く、さっきからギャーギャーうるさいと思ったら。

何を喚いてるんだ、このパワハラ上司は。

そしてサシャ・バールレン。

あんたは、おろおろする以外に、何もすることはないのか。

仮にも博士を名乗るなら、何とか言い返したらどうだ。

お前博士だろ。

おろおろするだけなら、幼稚園児にも出来るぞ。

そして、それ以上に。

ヒイラ・ディートハット。

お前はお前で、さっきから何を喚いてるんだ。

俺の仮面の情報によれば、ヒイラはさっきから、何故『光の灯台』がまだ完成しないのか、について怒っているらしい。

成程なぁ。

自称博士が、これを何とか宥めてくれたら良いのだが。

「…」

自称博士は、相変わらず困った顔で、おろおろするばかり。

何と言って宥めたら良いのか、分からないご様子。

…全く…。

あんたがそんなだから、いつもいつも、俺にお鉢が回ってくるのだ。

いっそ、俺もおろおろして無視してようかな、と思ったが。

ヒイラからの信用を、少しでも失う訳にはいかなかった。

さて、仕方ない。

この夜泣きの激しい坊やに、ガラガラ振ってあやしてあげるとするか。

「落ち着いてくれ、同志ヒイラ」

「落ち着いていられるか!」

逆ギレ。

「何をそんなに怒ってる。何が問題なんだ?」

白々しくも、そう尋ねてみると。

「問題も何も。分かってるのか?開発チームを結成してから、もう二ヶ月もたってるんだぞ?」

「あぁ」

正しくは、二ヶ月に達するまでにはあと10日ほど必要だが。

まぁ、約二ヶ月だな。

「それなのに、まだ『光の灯台』が完成しないのは、どういうことなんだ?」

「どういうこと…と言ってもな。開発チームを起ち上げたからって、すぐに開発出来るなら、世の中の研究者は頭を悩ませてはいないぞ」

俺がそう答えると、ヒイラはやや頭が冷えたようだが。

それでも、不機嫌な顔は変わらない。

「…すぐじゃない。もう二ヶ月もたってる」

「まだ二ヶ月だ。そう簡単に出来るものなら、チームのメンバー達も苦労していない」

「何故そんなに時間がかかるんだ?サシャ博士が、開発資料を持っているはずだろう。その通りに造るだけなのに、何が足りないんだ?」

おい、言われてるぞ自称博士。

「同志ヒイラ。サシャ博士の開発資料は、設計図じゃないんだ。資料というのは、あくまで『光の灯台』を完成させる為のヒントに過ぎない」

「…」

書付け通りに造れば、それで完成という訳にはいかない。

開発資料というのは、『白亜の塔』を建設する為に使われた、参考文献みたいなものだ。

既に製造法が確立された、設計図ではない。

…多分バールレン家には、『白亜の塔』の本物の設計図もあるんだろうな。

自称博士がそれを持ってこなくて、本当に良かった。

無知は罪と言うが、この場合あんたの無知は、良い方に転がったようだな。

俺達にとっては、だが。