と、言うのも。

「いくらなんでも遅過ぎる!」

「…」

勤務時間後に、上司に呼び止められ。

上司の叱責…と言うか、愚痴に付き合わされるという、一種のパワハラを受けているからである。

俺と同じく、パワハラを受けているサシャ・バールレン自称博士は。

ヒイラの叱責を受けても、おろおろするばかりで、何も答えられない。

それでも博士か、と言いたいところだが、こいつは自称博士なだけで、中身はただの家出貴族らしいし。

少しでもヒイラの怒りを鎮めて欲しかったが、期待するだけ無駄というものだな。

「開発チームを立ち上げて、もう二ヶ月近くになるのに。まだ出来ないのか!?」

しかし、ヒイラは、サシャの本当の正体を知っているのだろうか。

この自称博士のことだから、『白亜の塔』の開発資料を持ってきたときは、さぞや立派なドヤ顔だったんだろう。

自分のことはどう説明したのか。見栄を張って、「自分はこの研究の第一人者で…」みたいな自己紹介をしたんじゃないか?

ルルシー先輩達が入手した、バールレン家の家柄についての情報は、俺もアイズ先輩経由で聞かされたが。

確かにバールレン家出身である以上、この研究の第一人者であることは、確かなのだろうが。

でも、よく考えてみてくれ。

別に、こいつが開発した訳じゃないし。

かと言って、こいつよりは多少マシな、こいつの兄が開発した訳でもないし。

バールレン家が『白亜の塔』の開発に貢献したのは確かだが、それはサシャ兄弟の功績ではない。

「一体いつまで待たせるんだ!?何の為に危険を冒して、チームを起ち上げたと思ってる!?」

『白亜の塔』が開発され、量産化されてシェルドニア王国に普及したのは、遥か昔のことだ。

当然、サシャ兄弟も生まれていない。

『白亜の塔』開発に携わったのは、サシャ兄弟の先祖だ。

現在のバールレン家は、そのお偉いご先祖様が、『白亜の塔』の開発時に残した開発資料を、大事にお守りしているに過ぎない。

偉かったのはサシャ達のご先祖様であって、別にサシャ兄弟が偉い訳じゃない。

まぁ、サシャ兄…名前はテナイだったか…そのテナイの方は、自分なりに先祖が残した資料を熟読し。

『白亜の塔』の理論について、それなりに理解しているらしいが。

サシャの方は、さっぱり勉強してないそうだからな。

…とはいえ。

バールレン家の先祖も、一人で『白亜の塔』を開発していた訳じゃない。

似たような研究者が何人も集まって、そして長い年月をかけて試行錯誤し、ようやく完成したものだ。

だから。

「一刻も早く完成させてくれ!こんなところでモタモタしていられないんだ!」

ここで大激怒しているヒイラ・ディートハットは、論外ってことだな。