The previous night of the world revolution6~T.D.~

バールレン邸には、アシミムのお忍び用の車で向かった。

道中、周囲を警戒しまくっていると。

ルシードが、

「…狙撃手は呼ばなくて良いのか」

と、余計なお世話なことを聞いてきた。

「何だ?」

「子飼いの狙撃手を連れてきているんだろう?はぐれることになるぞ」

「余計なお世話だ」

確かにアリューシャの精神年齢は、良いとこ五歳児の子供だが。

それでも、飼っているつもりはない。

それに。

「お前達に、気を許したとでも思ってるのか?」

俺が、常にアリューシャと一定の距離を取っているのは。

俺に何かあったとき、アリューシャだけは逃げられるようにする為だ。

「主は、貴殿らに危害を加えるつもりはないと言った」

「そんな口約束を信じるとでも?」

「…」

「お前達には、常に疑うに値する『前科』がある。信じた方が馬鹿を見る」

特に、お前らは俺のルレイアを、とんでもない目に遭わせてくれたんだからな。

あのときのことを思えば、俺が今、お前達を撃ち殺していないだけ、俺の心が広いのだと思え。

…とはいえ。

今回の件では、恐らくアシミムは、本当に関与していないのだろう。

ルレイアのような観察眼がなくても、それくらいは俺にも分かる。

アシミムはルティス帝国と…と言うか、ルレイアと…敵対するつもりはない。

だから、バールレンとかいう貴族の人間をルティス帝国に遣わせ、『光の灯台』を造らせよう…という陰謀は、なかったということになる。

少なくとも、アシミムにそのつもりはない。

だが。

アシミムにそのつもりがなくても、他の人物まで同じかと聞かれれば、それは否だ。

嫌疑をかける相手が、アシミムから、そのバールレンとかいう貴族に変わっただけのことだ。

「…アシミム」

「…何ですの?」

「シェルドニア貴族達は、『白亜の塔』の秘密が、ルティス帝国にバレている…ということを知ってるのか?」

もし、知っているのだとしたら。

自国の大切な秘密が、他国にバレていることを知っているのだとしたら。

『白亜の塔』の建設に携わってきたバールレン家は、きっと危機感を覚えるだろう。

そして、『白亜の塔』の秘密を守る為に、独断でルティス帝国に潜入した…という可能性も考えられる。

ルレイアの恐ろしさを、実際に目にしていないバールレン家の人間は。

ルティス帝国に手を出すという行為が、どれほど無謀であるか、知らないだろうからな。

しかし。

「知りませんわ。そんなことを貴族達に話したら…」

「自分達の悪事が他国にバレたなんて知れたら、あんたが無能な女王であることも、貴族達にバレるもんな。言えるはずがない」

「…」

アシミムは、怯んだような表情を見せたが。

ルシードは、いかにも不快そうな視線を向けてきた。
 
勝手に睨んでろ。