The previous night of the world revolution6~T.D.~

「…アリューシャ。話は聞いてるな?」

俺は、声をひそめてアリューシャに連絡を取った。 

『おう。若ハゲの話だろ?』

そうだけど。でもそうじゃない。

「これからバールレンとやらの屋敷に向かう。携帯で俺の位置を辿って、可能な限り、お前も近くまで移動してくれ」

『りょ。つっても、こちとら移動手段ねーから、遅く…おっ』

お?

『丁度良いところに、ママチャリあるじゃん。ちょっとあれパクって、ルル公に追いつくわ』

お前って奴は。

だが、今回は目を瞑るしかない。

幸い、シェルドニア人は『白亜の塔』のお陰で、犯罪行為に寛容だからな。

置いていたママチャリがなくなっていても…多分、そんなに怒らないだろう。

いや、借りパクは犯罪だけれども。

今は、ルティス帝国存亡の危機と言っても良い状況なのだ。

借りパクくらいは、大目に見てくれ。

…いや、借りパクも犯罪だけどな?

ごめんな、持ち主。

「動かせるのか?鍵とか掛かってたら…」

いくら、犯罪行為に疎いシェルドニア人と言えども。

チャリに鍵くらいは…かけているのでは?

『だいじょぶだいじょぶ。ゴキブリ時代、よく盗んだチャリンコで走り出してたから。あのときに比べれば、これは立派なチャリだ』

あ、そう…。

『しかも、鍵かかってねぇぞこれ。家の中も、人いないみたいだし。パクり放題じゃん』

おい。

今、聞き捨てならないことを聞いたぞ。

てっきり、路肩に停めている自転車かと思ったら。

人の家の敷地内に侵入して、パクろうとしてるのかよ。

パクり方が凶悪。

そして、シェルドニア人よ。

お前達は、もう少し自分の家のセキュリティを見直した方が良い。

ルティス帝国では、到底有り得ない不用心さだな。

しかし、今回ばかりは見逃して欲しい。

こちらは、命が懸かっているのだ。

「…仕方ない。借りさせてもらえ」

『りょ』

「あと、無理に狙撃ポイントを探す必要はないぞ。くれぐれも、危険なことはするな」

既に、アシミムへの脅しは充分に効いている。

王宮は、もとから位置が分かっていたから、狙撃ポイントを用意するのも楽だったが。

これから向かうバールレン邸は、初見の場所だ。

周囲に、上手いこと狙撃に向いている場所があれば良いが。

そうでないなら、無理をすることはない。

アリューシャに何かあったら、俺はアイズに顔向け出来ない。

『まぁ、ボチボチ探してみるよ。良いポイントが見つかったら連絡するわ』

「…分かった。くれぐれも気をつけろ」

『りょ〜』

…返事が軽いから、イマイチ心配が拭えないが。

今は、これ以上の意思疎通は行えなかった。

「こちらに」

「…あぁ」

用意が整ったらしいルシードに呼ばれ。

俺は、件のバールレン邸に向かった。