The previous night of the world revolution6~T.D.~

…とにかく。

「その、サシャ・バールレンが関わっているのは、紛れもない事実なんだ。それだけは…」

「え?」

は?

アシミムは、きょとんとして俺を見つめた。

…何か、おかしなことでも言ったか?

「サシャ・バールレン…?どなたですの?」

「は?」

「わたくしの知っているバールレン卿のお名前は、テナイ・バールレン卿ですわ」

「…!?」

誰だ、それ。

「いや、でもあいつはサシャ・バールレンだって…」

「…存じ上げませんわ。わたくしの知っているバールレン卿は、テナイ・バールレン卿ですもの」

「…」

…偽名を使ってるってことか?

ルティス帝国にいるときは、カツラを外して、サシャという偽名を使い。

シェルドニア王国にいるときは、カツラをつけて、本名であるテナイという名前を使っている…。

いや…しかし、ルティス帝国とシェルドニア王国を、そう度々行き来することは不可能のはず。

シェルドニア貴族の当主が、ルティス帝国に入り浸る訳にはいかないはず。

じゃあ、やっぱりどちらかが影武者…?

…分からない。

すると。

「…主よ、横から口を挟ませて頂きますが」

アシミムを守るように、傍らに侍っていたルシードが、声を上げた。

「何ですの?ルシード」

「私の記憶が正しければ…確かテナイ・バールレン卿には、弟君がいらっしゃるのではなかったでしょうか」

「!」

弟…だと?

「本当ですの?ルシード。わたくしは、お会いした記憶はありませんわ」

「は…。私も、直接お話したことはありません。しかし…主がバールレン卿の邸宅で、テナイ卿と会談しているとき、姿をお見かけしたことがあります」

それを、もっと早く言え。

「では…では、その方が、サシャ・バールレン卿ですの?」

「確信がある訳ではございませんが…。可能性はあるかと」

「ルシード。そいつ、ハゲてたか?」

「…そこまでは、記憶にない」

そうか。

まぁ、そうだろうな。

ルレイア辺りなら、そういう第一印象と言うか…他人を見た目で判断して、勝手なあだ名をつけるから、覚えていたかもしれないが。

アシミムの、「縦ロール」呼ばわりしかり。

ルチカの、「年齢サバ読みおばさん」呼ばわりしかり。

…あれは悪い癖だと思っていたが、案外こういうときは、役に立つのかもな。

肝心のルレイアが、今この場にいないのが悔やまれるが。

…ならば。

「その、バールレン卿とやらの屋敷に、案内しろ。本人に確認を取る」

「…今すぐに、ですの?」

「当たり前だ。言っとくが、お前はまだ容疑者だからな。お前もついてこい」

この機に乗じて、トンズラされてしまう訳にはいかないからな。

テナイとかいう奴に確認を取る為にも、アシミムは必要だ。

女王様だろうが何だろうが、関係ない。ついてきてもらう。

「主を一人で行かせる訳にはいかない。俺も同行する」

と、すかさず同行を希望するルシード。

「勝手にしろ」

お前がいようといまいと、アシミムさえいればそれで良い。

それより。