更に、三兄弟のBが言った。

「俺は、親からの仕送りを出来る限り節約して、献金に当てるんだ」

アホ三人目、現る。

しかも、親からの仕送りを、勝手に献金するとは。

ちゃんと両親に、「お宅らの仕送り、怪しげな組織に寄付します」って伝えてるのか?

伝えてて親からOKをもらったんなら、こいつの親がアホ。

伝えないで勝手なことしてるんだったら、こいつがアホ。

とはいえ、こんなアホが、この世に生まれたのは親の責任なので、やっぱり皆アホ。

自分の貯金を勝手に下ろすのは勝手だが、親からの仕送りをドブに捨てるとは。

お前の親は多分、そんなことの為にお前に仕送りしてるんじゃないと思うぞ。

更に、アホは増える。

「俺は、これを献金するよ」

アルファベット三兄弟の最後、Cは。

エリアスの封筒を、遥かに上回る厚みを持った包みを取り出した。

何だ、あれは。

あいつん家、そんな富豪なのか?

そりゃまぁ、ルティス帝国総合大学に入学するくらいだから、皆それなりに金持ちだろうが。

「どうしたんですか?そのお金…」

俺が尋ねると、Cは決意を持った瞳で答えた。

「借金したんだ」

はい、アホ四人目入りまーす。

しかも、これまでのアホ三人が可愛く思えるほど、超弩級のアホ。

借金してまで献金するって、どんなアホだよ。

こんなアホだよ。

「借金…。誰から?」

「色々だよ。親と親戚、あと友達からも。それぞれ、適当に理由つけて、借りた」

アホを通り越して、最低だなお前は。

多重債務野郎め。

嘘をついてまで、金を集めてくるとは。

どうせ、金が入ってきても全部献金に回す癖に。

その借金、返す宛はあるのか?

「ルティス帝国の、未来の子供達を守る為に…。今、この金が必要なんだ。だったら…皆も納得してくれると思うんだ」

する訳ねぇだろ、馬鹿。

しかし。

Cは迷うことなく、包みの中の札束を、献金箱に入れた。

あーあ…。

しかも、そんなやり取りを聞いていた『帝国の光』の女派遣員が。

「ありがとうございます。あなたは、革命闘士の鑑です」

と、褒め言葉。

そして、『帝国の光』に献金する為に、全額貯金を寄付した者や、Cのように借金までして献金した者は、Cだけではないらしく。

何人かそんな愚か者もいて、派遣員はそんな学生に、称賛の言葉をかけた。

前回と同じように、財布の中の有り金を全部突っ込むだけでは、称賛の言葉はもらえない。

それくらいは当たり前だから、褒める価値はないと言わんばかり。

悪魔かよ。

こうなっては、エリアス達に遅れを取る訳にはいかない。

俺個人としては、『帝国の光』にくれてやる金なんて、一銭たりともないのだが。

スパイとしての俺は、エリアス達と歩調を合わせなければならない。

俺だけ少額の献金では、白い目で見られてしまう。

よって。

俺は、こっそり忍ばせていた封筒を取り出した。

万札が10枚入った封筒だ。

こんなこともあろうかと、非常用に用意しておいて良かった。

「俺も、貯金下ろしてきたんです。少しですが、足しになればと思って…」

「あぁ。俺達は、ルティス帝国の未来を変える為に、今尽くしてるんだもんな」

騙されてくれてありがとう。

全く、俺にとっては端金とはいえ、一銭でも奴らに渡るかと思ったら。

…ちっ。

仕方なく、俺は『ルティス帝国を考える会』の他のメンバーと同じく、万札を放り込んだ。

折角万札10枚もプレゼントしてやったのに、派遣員と来たら、称賛の言葉をかけるでもなく。

ただ、にこりと愛想笑いをして、会釈しただけだった。

褒めろよ。

十万くらいは当たり前、とでも言いたいのか?

実際、そうなのだろうな。

つーかその箱、中身もうヤバいことになってると思うけど。

現金をナマで持ち歩くのは、危険だからあまり推奨しないぞ。

…そして。

「…あいつ、また献金しないつもりみたいだな」

エリアスが、声を潜めて俺に言った。