「なら、せめて電話だけでも掛けさせてくれないか」
「電話…?」
「さすがに、いきなりバックれるのは…。今の店は、本当に生活に困ってたとき、俺に同情して雇ってくれたようなものだから」
勿論作り話だが。
そうでも言わなければ、電話一本すら、掛けることを許されなさそうだったので。
本当は、今夜だけでも出勤して、退職証明書に記入を…とか言って。
今夜だけでも、『black sacrifice』に赴く理由を作りたいところだったが。
ヒイラのこの様子じゃ、それは許されそうにない。
電話一本でさえ、この懐疑的な顔なのだから。
電話さえ許されなかったら、別の方法を考えなくては…と。
思っていると。
「…分かった。じゃ、今すぐに電話して良いよ」
ヒイラは、笑顔を取り戻してそう言った。
成程。
電話しても良いけど、自分の前でやれよ、と。
「今は昼間だから、店に誰もいないかもしれない」
暗に、後で自分一人になったときに掛けると言いたかったのだが。
「試しに掛けてみれば良いじゃないか。善は急げって言うだろ?」
あぁ、そうかい。
やっぱり、自分の前で掛けて欲しいんだな。
つまり、まだ俺がスパイではないかと疑ってる訳だ。
完全にシロだとは思ってない。
そもそもこの男は、誰もを信用している振りをしながら。
本当は、誰一人信用していないのだ。自分以外は。
…孤独な奴だな。
「そうだな。じゃあ、今掛けてみるよ」
舐めるなよ、俺の用意周到さを。
この窮地でも、監視されながらの電話一本でも、今の状況を伝えられるよう。
しっかり準備しておくのが、スパイの嗜みというものだ。
俺は、こういうとき用の、予備のスマートフォンを取り出した。
いつもヒイラ達との前で使っているのと、同じ機種、同じスマホケースに入っているが。
実は、別のスマートフォンだ。
さっき俺は、昼間だから店には誰もいないかもしれない、と言ったが。
『black sacrifice』には、俺の身に何かあったときの為に、常に『青薔薇連合会』の息がかかった誰かが、駐在している。
だから、俺が電話を掛ければ、誰かが出るはずだ。
しかし。
「…駄目だな。やっぱり誰もいないみたいだ」
30秒ほどコールしても、『black sacrifice』に待機しているはずの構成員は、誰も出なかった。
そういう約束をしているからだ。
このスマートフォンの電話番号で掛けた場合、誰も出るな、と伝えてある。
だから、誰も出ない。
そして、この電話番号から掛けるときは、何かしらの緊急事態が起きた、という符丁でもある。
今頃『black sacrifice』の駐在員は、何事かと動揺していることだろう。
誰かは分からないが、申し訳ない。
「電話…?」
「さすがに、いきなりバックれるのは…。今の店は、本当に生活に困ってたとき、俺に同情して雇ってくれたようなものだから」
勿論作り話だが。
そうでも言わなければ、電話一本すら、掛けることを許されなさそうだったので。
本当は、今夜だけでも出勤して、退職証明書に記入を…とか言って。
今夜だけでも、『black sacrifice』に赴く理由を作りたいところだったが。
ヒイラのこの様子じゃ、それは許されそうにない。
電話一本でさえ、この懐疑的な顔なのだから。
電話さえ許されなかったら、別の方法を考えなくては…と。
思っていると。
「…分かった。じゃ、今すぐに電話して良いよ」
ヒイラは、笑顔を取り戻してそう言った。
成程。
電話しても良いけど、自分の前でやれよ、と。
「今は昼間だから、店に誰もいないかもしれない」
暗に、後で自分一人になったときに掛けると言いたかったのだが。
「試しに掛けてみれば良いじゃないか。善は急げって言うだろ?」
あぁ、そうかい。
やっぱり、自分の前で掛けて欲しいんだな。
つまり、まだ俺がスパイではないかと疑ってる訳だ。
完全にシロだとは思ってない。
そもそもこの男は、誰もを信用している振りをしながら。
本当は、誰一人信用していないのだ。自分以外は。
…孤独な奴だな。
「そうだな。じゃあ、今掛けてみるよ」
舐めるなよ、俺の用意周到さを。
この窮地でも、監視されながらの電話一本でも、今の状況を伝えられるよう。
しっかり準備しておくのが、スパイの嗜みというものだ。
俺は、こういうとき用の、予備のスマートフォンを取り出した。
いつもヒイラ達との前で使っているのと、同じ機種、同じスマホケースに入っているが。
実は、別のスマートフォンだ。
さっき俺は、昼間だから店には誰もいないかもしれない、と言ったが。
『black sacrifice』には、俺の身に何かあったときの為に、常に『青薔薇連合会』の息がかかった誰かが、駐在している。
だから、俺が電話を掛ければ、誰かが出るはずだ。
しかし。
「…駄目だな。やっぱり誰もいないみたいだ」
30秒ほどコールしても、『black sacrifice』に待機しているはずの構成員は、誰も出なかった。
そういう約束をしているからだ。
このスマートフォンの電話番号で掛けた場合、誰も出るな、と伝えてある。
だから、誰も出ない。
そして、この電話番号から掛けるときは、何かしらの緊急事態が起きた、という符丁でもある。
今頃『black sacrifice』の駐在員は、何事かと動揺していることだろう。
誰かは分からないが、申し訳ない。


