え?お前、この緊迫した状況の中で、一体何をしているのかって?

見たら分かるだろう。ホウ酸団子作りだ。

潜入初日からして、用意していた潜伏先ではなく。

『帝国の光』の、謂わば社宅のような部屋に入ることになり。

狭いアパートの一室で、まず最初の一晩を過ごし。

そして、分かったことがある。

この部屋には、既に先客がいたようだ。

そう、ゴキブリ、通称Gと呼ばれる悪魔の生き物が。

その黒々とした雄々しい姿には、畏敬の念を抱くが。

残念ながら、この家で一番輝いていなければならないのは、Gの黒々とした羽根ではなく。

俺の、この黒い仮面でなければならないので。

相容れない俺達は、永遠の離別の為、こうしてホウ酸団子を手切れ金代わりに、離婚調停中である。

悲しい現実が、そこにはある。

「残念だな…。俺達は、分かり合えない運命だったんだ…」

そう言って、俺は水回りを中心に、完成したホウ酸団子(前回作ったものの改良版)を、置いて回ったのだった。

アデュー。