…それよりも。

「おぉ、凄い!キッチンだ!キッチンまである〜!本物の家みたい!」

はしゃいでいらっしゃるところ、申し訳ないが。

「…セカイさん」

「んん〜?何?」

「済みません、僕のせいで、こんなことになってしまって」

「…」

僕が、珍しく真面目に謝罪したからだろうか。

いや、僕はいつだって真面目なのだが。

セカイさんは、驚いたような顔で僕を見た。

「セカイさんは…関係ないというのに…。危険な目に遭わせ、あまつさえ、箱庭帝国に亡命させることになってしまって…」

「…もー、そんなこと気にしてたの?」

「は」

セカイさんは、僕の頭に手を乗せた。

「可愛い弟君なんだから。気にしなくて良いんだよ。君が破天荒なのは今に始まったことじゃないし、むしろそんな破天荒なところも好きだし!」

「…何なら、セカイさんも相当破天荒ですもんね」

「え?何か言ったかな〜?」

「いたたたた」

耳が。耳がちぎれますって。

「とにかく!私だって、マフィアの妻なんだから!それなりの覚悟は出来てるよ」

「…セカイさん…」

「マフィアに追われながら、ひたすら水商売させられてたときより、ずっと楽しい。君と一緒なら、私はどんなところでも楽しいよ」

…そうですか。

僕もそうです。

誰からも持て囃され、大事にされ、豪奢な暮らしを満喫していた、王族としての日々よりも。

今の方が、ずっと「生きている」って気がする。

「だから、気にしないで!ちょっと遅めの新婚旅行と思えば、悪くないよ」

「確かに…。新婚旅行、行ってませんてましたもんね、僕ら」

「そうそう!折角だし、箱庭帝国でハネムーンしよう!」

「分かりました」

全く、本当に。

セカイさんには敵わない。

ルティス帝国を離れることになって、沈み気味だった僕の心を、掬って、温かく包んでくれる。

…済みません、シュノさん。

後のこと、宜しく頼みます。