「あはははは!あなた達、もう形振り構わなくなりましたね!」

思わず、そう言ってしまった。

ルリシヤも、

「…うん。もう笑うしかない、滑稽だな」

仮面の下で、笑いを噛みこらえているご様子。

そりゃそうなるよ。

しかし。

「何を笑ってんだ、お前は…」

ルルシーが、そんな俺をたしなめた。

いや、だって。

「思わず笑っちゃいたくなるでしょう?あの誇り高き帝国騎士団が!もう形振り構わず、マフィアである俺達に協力を申し出るなんて!プライドって言葉知ってます?絵本描いて教えてあげましょうか?」

やっぱり、この場にアストラエアも呼んでおくんだったな。

今頃、猿のように顔を真っ赤にして、ギャーギャー怒ってただろうな。

想像するだけで面白い。

今は、とりあえず、苦虫を噛み潰したようなルーシッドの顔面で我慢してやるか。

「そうだ、俺達に守るプライドなどない。俺達が守るのはルティス帝国だ」

「…」

オルタンスは、顔色を変えずに、淡々と言った。

「その為なら、清濁を構ってはいられない。取り得る手段は、全て取る」

「そりゃまぁ、大層『ご立派』ですね」

俺を捨てたあんたが言うと、余計説得力が増すよ。

「その『帝国の光』というのは、私達に助力を求めるほど勢力を広げている…そう考えて良い、と?」

俺と違って、アイズは冷静そのもの。

偉いよ君は。

「あぁ。『天の光教』の残党を管理していたルーシッドから報告を聞き、こちらでも詳しく調べてみたが…。帝都を中心に、かなりの勢いで党員を増やしているようだ」

「…」

「そこで俺達は、『帝国の光』の党員が集まっている、目ぼしい組織や施設に、諜報員…つまりスパイを送り込もうと思っている」

成程、そうやって奴らの動向を探ろうと?

妥当な手だね。

「…それで?それが何か、私達に関係あるんですか?」

言ってやったぜ。

アイズが、冷たく、冷徹に。

マフィアの目をして、彼はオルタンスにそう言った。

君が言わなかったら、俺が言うところだったよ。

オルタンス達も、そう言われることは予測済みだったようで。

特に顔色を変えることはなかった。

当たり前だ。その程度予測出来ずに、あんなメールを寄越してきた訳ではあるまい。

「先程あなた方は、協力して欲しいと言いましたね」

「あぁ、言った」

「何故、私達を頼るんです?こんなところで、わざわざ私達を呼び出して、時間を浪費している暇があったら、さっさとスパイでも何でも送り込めば良い。私達には、何の関係もない話です」

その通り。

もっと言ってやってくれても良いよ。

「『天の光教』の事件のときは、私達も協力しました。でもそれは、利害の一致と、私達の個人的な理由で『天の光教』と敵対していたからに過ぎない。『天の光教』が消滅し、教祖も捕らえられた今、我々は仲間でも何でもない。もとの関係に…敵対する組織同士に戻ったはずです」

「…」

「それなのに、何故愚かにも、私達に助力を求めるんですか?そちらが相当の馬鹿なのか…それとも」

アイズは一拍置いて、品定めでもするかのような。

マフィアの眼光を放って、オルタンスを睨んだ。

「私達を動かすに値する、納得の行く『見返り』でも、用意してきたんでしょうね?」

…。

おー怖。

あんな気迫で凄まれたら、素人なら泣いて逃げ出すよ。

眉一つ動かさない辺りは、さすが帝国騎士団隊長連と言ったところか。

若輩者のルーシッドだけは、僅かに怯えの表情を隠しきれていないのが残念だが。

「あぁ。協力に応じてもらえるなら、こちらは相当の『見返り』を提供する。『青薔薇連合会』が充分に納得出来るものを…」

「腹の探り合いは結構。さっさと聞かせてください」

「…分かった」

…さて。

何が飛び出してくるやら。

「見返りは…『青薔薇連合会』の、『いつも通りの日常』だ」

…ほう。

それはそれは…実に興味深い話だ。