――――――…わざわざルーチェスが、ルルシーとの仲介をせず、真っ直ぐ『青薔薇連合会』本部にやって来た時点で。

ただならぬ何かが起きたのだろうと、予測してはいたけれど。

そうか。そう来たか。

「えっ…。スパイをやめるってこと?」

驚いて、シュノが尋ねた。

「はい、そうです」

「どうして…。何があったの?」

「…お前の方から言い出すってことは、余程のことが起きたんだろう」

シュノに続いて、ルルシーがそう言った。

アリューシャは…ちょっと彼には早い時間だったらしく、半分寝ていた。

起こしたら可哀想だし、そっとしておこう。

それで。

「説明してもらえる?」

「はい。昨日、うちの嫁宛に…市販のお菓子の懸賞品を模した、盗聴器入りのぬいぐるみが送り付けられてきまして」

「…!」

シュノもルルシーも、息を呑んでいた。

私は、それくらいのことは予測していたから、特に驚きはしなかった。

あのルレイアの弟子が、半ば血相変えて飛び込んでくるんだから。

それなりのことは起きたんだろう。

そして、案の定だった。

「気づいたのは今朝?」

「はい。不覚なことに、昨日までは気づきませんでした。それについては申し訳ありません」

「むしろ、一晩で気づけた方が凄いと思うよ」

これが他の人間だったら、一生気づかなくてもおかしくない。

ルーチェスだからこそ、一晩で気づけたのだ。

「これが誰の仕業なのか、僕には分かりません。ですが…覚えはあります」

…そうだね。

君の場合、まず元王族だからという理由で、付け狙われる可能性は常にあるね。

でも、今回は恐らく、そちらの理由ではなく…。

「元々僕が、『赤き星』に信頼されてないのは、ルルシーさんを通してご存知だと思いますが」

「うん、知ってるよ」

ルーチェスが上手く取り入ろうとしても、元々のメンバーの結束が固過ぎて、付け入る隙がないと。

そもそも、一年生であるルーチェスを入党させたことさえ、例外中の例外だったと聞いている。

そこを上手く入り込んだだけでも、苦労したことだろう。

そして…。

「荷物が届く数日前、『赤き星』の党員から、僕の考えは『赤き星』の方針に添うものではない的なことを言われて、ついでに論文を書いてこいって言われまして」

「論文って…。確か、『赤き星』に入るときも、提出させられてたよね?」

「はい。連中、多分論文が大好きなんだと思います」

だろうね。

「で、論文を書いて渡したんですけど…。それが昨日のことです。その場では読まれず、一日待つように言われました」

つまり、今日サークルに行っていたら、そこで論文の「評価」を聞かされていた訳か。

「今論文が何処にあるのか、誰に読まれているのかは分かりません。ですが、僕は『赤き星』には全く信用されてないようです」

「…」

「そして…これは僕の憶測ですが…『赤き星』の、あの結束力と、原理主義的な共産主義思想…。恐らく、『赤き星』も…繋がってるんでしょう」

「…そうかもしれないね」

君の推測通りだろうね。

しかも、『赤き星』の場合…きっと、もっと前から、繋がっていたのだろう。

…ルリシヤが潜入している、ルティス帝国の共産主義組織、『帝国の光』と。