The previous night of the world revolution6~T.D.~

「うぉぉぉぉ!しゅんしゅんしゅん!しゅしゅしゅ!」

「…」

「忍法!アリューシャ拳法!ハイパーウルトラアリューシャ飛び蹴りっ!」

ひゅんっ、と飛び上がったかと思うと、空中に向かって、渾身の飛び蹴りを披露するアリューシャ。

しかし。

「ぷぎゃっ!」

着地に失敗して、尻餅をついて床に転げ落ちた。

…微笑ましいなぁ。

情報収集係であるルルシーが持ってきてくれた報告書を、一日中読んでいると。

つい、頭が痛くなったり肩が凝ったり、何なら胃痛も感じるのだが。

こうして、目の前にアリューシャがいると。

そういうの、全部吹き飛ばしてくれる。

ルルシーなら、「こんなときになにやってんだ馬鹿」と、アリューシャの頭をひっぱたくところだろうが。

私にとっては、何よりも優秀な治療薬だ。

癒やし系アリューシャ。

「アイ公〜…。ケツ打った〜…」

半泣きでよたよた戻ってくる辺り、もう癒やししか感じない。

「はいはい。危ないから、飛び蹴りはやめようね」

「でもさ〜…。いざ!ってときの為に、飛び蹴り練習しといた方が良くね?」

いざ飛び蹴りが必要なときって、なかなかないと思うけどなぁ。

「仕方ねぇ…。じゃあボクシングだ!アリューシャ、ボクサーになる!しゅんしゅんしゅん!」

セルフ効果音と共に、素早くジャブを打ち込むアリューシャ。

どうやら、見たところさっきからアリューシャは。

格闘術を極めたいらしい。

「どうしたの、アリューシャ。いきなり格闘術を始めて」

「ふぇ?だって…」

アリューシャは、ジャブを打つのをやめて、項垂れたように言った。

「だってさ〜…。ルレ公もルリ公もルー公も、すげー危ないところに潜入してるだろ?」

「そうだね。程度の差こそあれ…。危険な場所に潜り込んでるのは、変わりないね」

しかも、さっき受け取ったばかりの情報によると。

比較的安全とみなされていた、ルティス帝国総合大学の『ルティス帝国を考える会』も。

段々と、危うい方向に向かっているようだ。

だから、私の頭痛の種が芽を出しかねないのだが。

アリューシャの癒やしのお陰で、何とか発芽せずに済んでいる。

「ルル公は、あちこち回ってじょーほーしゅーしゅーしてるし。アイ公はそのじょーほーまとめてるし。シュー公は…なんか部屋に閉じこもっちゃってるし」

そうなんだよ。

ルレイア達が各機関に潜入してからというもの。

シュノは、最低限の仕事だけして、あとは自分の部屋に閉じこもっている。

「ルレ公がいないから、シュー公寂しくて、引きこもっちゃってんのかな?」

「いや、彼女は大丈夫だよ」

私も、あまり姿を見せないシュノのことは心配だが。

彼女が自分の部屋に閉じこもって、何をしているのか、大体の察しはついている。

だから、邪魔しないでおこうと思っているだけだ。

「でも、アリューシャは何もやることねーじゃん!?今のところ、何の役にも立ってねぇ!」

「そんなことないよ。アリューシャがいなかったら、私は頭痛薬の過剰摂取で、胃に穴が空いてるよ」

誇張じゃないぞ。

本当。アリューシャがいるのといないのとじゃ、私の精神衛生は全然違う。

「そうだとしてもさぁ〜!アリューシャもなんか役に立ちたい!でも、今のところアリューシャが格好良く狙撃して、なんかが解決する訳じゃないんだろ?」

「そうだね。残念ながら…」

現状、私達の敵は人ではない。

相手が人なら、簡単に問題は解決する。

アリューシャに、格好良く撃ち抜いてもらっても良いし。

最近本格稼働を始めた、私の秘蔵っ子達に頼めば、事は簡単に済む。

しかし残念ながら、私達の今回の敵は、思想だ。

人を殺しても、思想はなくならない。

人々の中に思想が残る限り、何人殺したところで、問題は解決しない。

それどころか、別の問題まで発生しかねないのだ。

だから、こんな遠回しで、危険な綱渡りみたいな手段を取るしかないのだ。