…話し合いが終わった、かと思いきや。

ルレイア殿が、ふととんでもないことを聞いてきた。

「あ、そうだルーカス」

「…ルアリスですけど」

「あぁ、そんな名前もありましたね」

俺にはそんな名前しかありませんけど。

「何ですか?」

「時に、お宅の娘…『美味しく』育ってます?」

噴き出しそうになった。

これまで娘のことを、「元気ですか?」とか、「大きくなってますか?」とか聞かれることは、山ほどあったけど。

「美味しく育ってますか?」と聞かれたのは初めてだ。

食べられること前提ですか。

しかも、ルレイア殿の言う「美味しく」とは…つまり…。

…ゾクッ。

「…残念ながら、『不味く』育ってます」

「えっ。『不味い』んですか?」

嘘である。

親の贔屓目かもしれないが、ちゃんと美味し、いや…可愛く育ってます。

しかし、そんなことを言ったら、このルティス帝国の死神が、舌なめずりをする恐れがあるので。

…不味いことにしておこう。娘を守る為に。

「なぁんだ…。つまんないですね。俺、『不味い』モノは食べる趣味ないので」

モノ扱い。

「ご期待に添えず申し訳ないですが…。はい、『不味い』です」

「仕方ないですね。まぁ、まだ余裕はありますし。これから軌道修正して、精々『美味しく』育ててください」

「…努力します」

…やっぱり、「不味い亅ことにしておこう。

娘を守る為に。