【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


「いただきます」 そう言って手を合わせていつも通りご飯を食べ始めた。
ちらりと顔を上げて伊織さんの方を見ると、黙々と箸を進めている。

いつも思う事なんだけど、伊織さんには上品な雰囲気がある。 育ちの良さが窺える箸の持ち方と礼儀作法だ。 彼はいつもご飯を綺麗に食べてくれる。…会話はないのだが。

ジッと見つめていると、顔を上げた伊織さんのブラウンの瞳と目が合う。


’男の人の割にやっぱり綺麗なんだよなあー’

市ヶ谷のおじい様を見ても思った事だけど、雰囲気がある。 結婚式で一度だけ会った事のあるご両親もお兄さんもどちらかといえば美形だった。

美形一族なのだと思う。

けれど伊織さんの澄んだブラウンの髪の毛と瞳は、確実にお母さん似だと思う。 母親似という事はつまりは市ヶ谷のおじい様似であるという事なのだけど。

透明感があって、雰囲気のある人だ。 これで性格が普通だったらモテモテだったに違いない。

「あのぉ……」

勇気を出して口を開くと、彼は驚いたように顔を上げる。

「何かあったか?」