伊織さんを慌てて出迎えようとして、指先を鍋へとつけてしまった。
今日届いた大量の荷物に、つっこみどころは満載だ。 けれども彼は相変わらず涼しい顔をして「何をやっているんだ」と私をチラ見した。
そしてそのまま着替えに自室へと入って行ってしまう。
「ちょっとぉ…!熱いんだけど?!フツーやけどした?!とか心配しないわけ?!」
彼への文句は誰もいないキッチンの中、独り言として消えて行った。
モヤモヤした気持ちのまま、今日の夕飯のメニューである煮物をお皿へと移していく。
「小早川さんはああ言っていたけれど、本当なのかな?」
昨夜、小早川さんは伊織さんが毎日のように私の料理を美味しいと言っていると言っていた。
しかしにわかに信じがたい。だって美味しいはおろか、ご飯中に会話の一つもないんだもの…。
作った夕飯を並べ終えたのと同時に、部屋着に着替えた伊織さんがやって来た。 特に会話もなくいつも通りダイニングテーブルへと座る。



