「あんな決定的な場面を見せつけられて、話なんか聞くつもりありません。
それに私平気ですから、桃菜のああいうのには慣れてるし男の人が桃菜に夢中になる気持ちも分かりますから。
だからそれについて伊織さんを責めるつもりはありません。
だって元々私達の結婚って愛情があって始まったものでもないですし」
はっきりと伊織さんを好きだと認識していた癖に、また強がって平気な振りをしてしまう。
本当はこんな自分がすごく嫌いなのにどうしても素直になれない。 だって惨めになんかなりたくない。
「だから、離して下さいッ」
腕を振り払おうとしたら、更にぎゅっと力を入れて抱きしめられる。
不覚にも彼の胸の中にいたらときめいてしまう自分がいて、そんな自分がもっと嫌だ。
これじゃあ諦められなくなる一方だ。 いつもどんな時だってそういう物だって切り替えられたのに。
「…どうしてそうやって強がりばっかり言うんだ」
「え?」
耳元で彼の吐息が揺れた。 まるで彼に全てを見透かされているような気持ちになる。



