【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


「私が出て行った方が桃菜と楽しく過ごせるでしょう?
離婚については市ヶ谷のおじい様も私の方からきちんと説得します。
それに…借金も時間が掛かっても必ず返しますから」

「そんな事を、望んでいない…!
何も話も聞かずに、勝手に話を進めないでくれ」

「話す事なんて何もありませんよ…。それに、伊織さんの話なんか聞きたくない」

そう言って踵を返し走り出そうとすると、伊織さんが後ろから私を抱きしめてきたのだ。

今までだってあまり触れ合った事なんて、なかった。だから突然の出来事に頭の整理が追い付いていかなかった。

すっぽりと私の体を包み込む、彼の腕が掴んで離してくれようとはしない。
こういう事されたらまた勘違いしそうになるのに。
伊織さんの体が小刻みに震えているのに気が付いたのは、抱きしめられて暫く経った時の事だった。

「…離して下さいよ。 周りの人に変な目で見られる」

「離したら、君はまた逃げて行ってしまうのだろう…
ろくに俺の話も聞かずに」