「おい、逃げるな」
「ちょ…離して…」
振り払おうとしても、物凄い力だ。観念して振り返って彼の顔を見ると、何とも顔色が悪い。
目の下にはクマが出来ており、いつもより疲れているように見えた。
と、いうか伊織さんは私の職場を知っているんだった!待ち伏せされる事はないと思ってたんだけど
「痛いから離して下さい!」
少しだけ強めに言うと、彼は手をパッと離した。 申し訳なさそうに俯いて、傷ついた顔をする。
…どうしてあなたがそんな顔をするのよ。 まるで私の方が傷つけてしまったみたいじゃないか。
「待ち伏せみたいな事、趣味が悪いとは思ったんだ。 すまない。
けれど俺、君に話を聞いて欲しくて」
「話って何ですか?離婚話?」
離婚、と口に出すと彼の眉がぴくりと動いた。
「離婚って… その言葉を簡単に口にするなって言ったのは真凛の方じゃないか」
いつもつりあがっている眉と瞳は弱々しく垂れ下がり、太陽の光に透かされたブラウンの瞳がより一層切なく映る。
だからどうしてそんな顔をするのよ。 じわじわと心に罪悪感が降り積もる。



