「……せぇっての」
下を向いた桃菜が、ぎゅっと拳を握り締めて低い声を出す。
険しくなった表情はいつものように弱々しく笑うでもなく、瞳にももう涙の微塵もなかった。
「うるせぇつってんだよ。最初からあんたの何でも見透かしてますっていう目がむかついてたんだよッ」
彼女は……に、二重人格なのか。
碧人に向かい顎を突き上げるように鋭い視線を向けた桃菜を見て、俺の方が怯んでしまった。 思わず後ずさりして碧人の後ろに隠れる。
あんなに甘い声を出していつもきゃぴきゃぴ笑っていたのに、今はそんな面影の一つもない。
碧人は頭を抱えて、小さく息を漏らす。
「真凛ちゃんだって、桃菜の事本当は嫌いで疎ましく思ってるに決まってるんだ。
それなのにあの子はいつもいい子ぶって周りから好かれようとして、そういうのには反吐が出そうになる。
確かに真凛ちゃんの彼氏を奪った事は何度もあるよ?けどそれの何がいけないわけ?
真凛ちゃんの彼氏なんてちょろいもんだった。 幸せそうにしてたって、桃菜が少し手を出しただけですぐに桃菜の事好きになるんだもん。
桃菜はね、真凛ちゃんが大嫌いなの。 すごく幸せな環境で生きてきて、苦労なんかした事なくって桃菜の欲しい物手に入れようとする。
そういうのムカつくから、真凛ちゃんが大切にしてる物なら全部奪ってやりたかった。 それの何がいけないの?!」



