【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


「はいはい、分かってるって。 友達の嫁に手を出すほど女性に困った事なんかないよ。 お前は本当に……」

俺と碧人が言い合いをしている間、まるで’無視するな’と言わんばかりに桃菜がキーキーと声を荒げた。

そうだ、すっかり存在自体を忘れていたが…。

「伊織んも碧人さんも勝手に話をすすめないでよ!
桃菜の事無視しないでッ……」

無視しないでと言った彼女の大きな瞳には、涙がいっぱい溜まっていた。 その顔を見て、一瞬たじろいでしまった。

何があろうと、何をされようと、女性の涙には弱い。 いや、そういったどっちつかずの態度が真凛をやきもきさせてしまったのかもしれない。

しかし優し気に見せてどこまでも非情な俺の友達は、涙ぐむ桃菜をじとりと冷たい瞳で見下ろした。

「また嘘泣きですか? そうやって泣けば誰でも自分の思い通りになると思ったら大間違いですよ」

「な、そんなつもりないもん。ぐすん。本当に悲しいんだもんッ!」

「俺には君の涙は通用しませんよ。 大体君の使う手法は幼い妹達と同じなんだ。
何でも我儘を言えば自分の思い通りになって欲しい物が手に入る。
小学生や中学生の子供と同じ考えなんて大人として恥ずかしいですよ。 あなたももういい歳をした女性なんだ。
いい加減大人になって下さい」