【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


桃菜がそう言えば、碧人はじろりと俺を睨みつけてきた。

ち、違う。そんなつもりは毛頭なかった。 …ただ妻の大切な友達が困っているのならば、助けてあげないと小さな夫だと思われるだろう。

否定するように碧人に向かって首をぶんぶんと振ると、碧人は面倒臭そうにはぁーと重いため息を吐いた。

「伊織は…口数も多い方じゃないし態度も分かりにくい人間ではあるけれど
これだけは分かる。
伊織が桃菜さんにその気だった事は一度もないし、大体桃菜さんのようなタイプは伊織が好きになるはずがない」

その時程碧人の言葉に救われた日はなかっただろう。

表向きはボヤージュの社員として、俺の秘書として下で働いてくれているが、昔から何かを見透かした目をするいけ好かない野郎だった。

ただ本気でいけ好かないとは思っていなく、ある程度の信頼は置いていた。
大家族で育ってきた碧人はしっかり者で、頼りになる。 仕事も出来て、優秀な人間だ。