【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


何も特別印象に残ったわけではない。

じーさんから連れて来られた女性は、中肉中背でどこにでもいるような黒髪ロングの気の強そうな女性だった。

切れ長の少しつりあがった瞳と、鼻と口が小さくて顔のラインのシュッとしている。 事前に碧人がどういう女性であるか身辺調査をしていたけれど、それにも興味がわかなかった。


じーさんの思い通りに連れて来られ、母親の借金の肩に結婚をするようなお人好しなタイプの女。

あっという間に結婚が決まってじーさんの希望で結婚式を挙げたけれど、ちっとも笑いもしないし楽しそうでも嬉しそうでもなかった。

それも当たり前だ。 彼女自身だって望んだ結婚ではなかったのは、俺と同じだからだ。 苗字が変わっただけ。夫婦としては成立していない。

一緒に暮らしてはいたが、殆ど家に寄り付かなかった俺と彼女はすれ違いの日々を送る事になる。
そんな生活に彼女は文句の一つも漏らさなかった。