「真凛ちゃーん!シャンプーのストックってどこにあるんだっけー?」
洗面所から桃菜の高い声が響いたから、慌てて伊織さんから離れた。
こちらを見下ろす伊織さんの顔は怒っているとか不機嫌そうとかではなく、何故か悲しそうに項垂れるばかりだった。
「そ、そんな質問変ですッ。
私が何をしたら傷ついたり嬉しいかなんて知ってもどうしようもないじゃないですか。
だって伊織さんは自分のお店を持ちたいから私と結婚したんでしょう?
この結婚ってそういう事ですよね。 だからお互いの気持ちなんて関係ないんじゃない」
「けれど、真凛…!俺は」
’真凛ちゃーん’と私を急かす声が洗面所から聞こえる。
さっきよりもずっと変な空気になってしまった。
「桃菜が呼んでますので」
何かを言いかけた伊織さんの言葉を遮って、小走りで洗面所へ向かう。
体が熱いし、胸がドキドキして止まらないよ。
抱きしめられた時、改めて自分が伊織さんを意識しているのに気が付いた。
伊織さんが好きだ。 こんな気持ちに気が付きたくなかったのに。



