【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


桃菜のせいで私と伊織さんが軽く言い合いになってしまう。
雰囲気は最悪だ。

だって今までの経験上、男性関係で私と桃菜の意見が食い違えば、大抵男性は桃菜の味方になる。
伊織さんとはそういう状況を避けたいから、余計な事を言いたくない。

洗面所の方からガタガタと音がする。 もしかして桃菜がお風呂から上がってきたかもしれない。

こんな言い合い桃菜に聞かれたくない。 私と伊織さんが上手くいっていないのを察知したら、更に伊織さんに積極的にアプローチしそうだ。

逃げるように立ち去ろうとすると、伊織さんが私の腕をぐいっと強く掴む。

「は、離して下さいッ!」

「嫌だね。君の気持ちをちゃんと聞いていない」

思っていたよりずっと大きな手のひらだ。ごつごつとした指先に熱が帯びていて、触れられる所がジンと熱かった。

見上げると、端正な顔立ちをした伊織さんがこちらを見下ろす。

視線から逃れようと目を逸らした瞬間、ふわりと伊織さんの匂いに包まれた。 一瞬何が起こっているのか頭を整理するのに時間が掛かった。