私の言葉を聞きつけてか、桃菜が伊織さんの腕を掴みながら唇を膨らませる。
そして甘えた声を出すのだ。
「真凛ちゃんも昔からお母さんみたいなのッ。碧人さんって桃菜ちゃんにちょっと似てるッ」
桃菜が中心になってしまうこの場には、どうしても居たくなかった。
「本当に大丈夫ですか?」そう言って顔を覗きこむ小早川さんに、愛想笑いを浮かべる。
私はいつだってこうなんだ。 自分の思っている事をハッキリと言えず、その場の雰囲気に流されてしまう。
「大丈夫です。でも今日は一日歩き回って疲れたのでもう寝ますね」
いつか、今までのように伊織さんも桃菜に取られてしまうのではないか。
そう思ったけれど、そうなったとしても文句は何一つ言えない。
私達は互いに愛情があって結婚をした夫婦と事情が違うのだから。 だからいつか本当にそうなる日が来るとしても平気だと笑って凛と立っていよう。
喉まで出かかった言葉をまた一つグッと呑み込んだ。