「ご、ごめんなさい。桃菜が我儘ばかり言って…。桃菜の我儘なんできかなくっていいのに…」
「全然クッキー位大した事じゃあない。」
「でも桃菜が家に来て迷惑ばかりかけて」
「全然迷惑なんて思っちゃいないよ。寧ろ欲しい物を欲しいとはっきりと意思表示してくれて、助かる」
伊織さんは本当に迷惑そうな顔はしていなくって、その言葉にずきりと胸が痛む。
私は全然自分の意思表示が出来ない。
何かを言いたくてもいつも我慢して呑み込んじゃうし、はっきりと言いたい事を言えない。
桃菜に優しくするのは嫌だ。 その日もそう言いたかった言葉をグッと呑み込んだ。
「…桃菜は昔からそういう子なんです。 男性から見たら可愛くて堪らないんじゃないですかね」
にこりと愛想笑いを浮かべたままそう言った。 今自分がすごく嫌な奴だと分かっている。
そんなことないよ。 と、私は伊織さんから否定の言葉が欲しかった。
しかし伊織さんは目を細めて静かに笑う。



