【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


高級な宝石店に安物のペアリングなんて置いていない。
伊織さんはついでに婚約指輪も買おうと言い出す始末で、困り果ててしまった。

婚約指輪の件は婚約もしていない結婚だからそんな物はいらない。とそれらしい理由をつけてやんわり断った。

しかしそれもまた彼は不服そうだった。


そして私と伊織さんの左手の薬指には、何故か新しい結婚指輪がはめられる羽目になったのだ。

結婚指輪を二回も買うなんて贅沢な話だと思う。 けれどここで断れば伊織さんは納得せずにまたしつこくしてくるだろう。

観念して出来るだけ質素なデザインのペアリングを買ったが、それをはめた途端伊織さんは上機嫌になった。

「良い物が買えたな。 俺は指輪をつけるならシンプルな物の方が良かったけれど
君は本当にそんな米粒みたいなダイヤがついてる物で良かったのか?」

「充分すぎます!」