「このバックなんてどうだろう、真凛によく似合うと思う」
「こちら新作で後数点しか残っていないんですよ~。よろしかったら鏡で合わせて下さいね」
そう言って押し付けられたのは、ロゴが有名な某ブランド店のバックだった。
…私が普段使っているバックと桁が二桁程違う。 思わず焦って店員さんにバックを突き返した。
「い、伊織さん私バックは持っていますので」
「何だ?幾つ持っていたって困らないだろう」
「私の腕は二本しかないんですッ。 それに…ね、値段が。
とてもじゃないけれど私買えませんよ…」
今しているバイトの給料何ヵ月分だろう。とてもじゃないけど払えない。
今だってちまちまとバイトをしている理由は市ヶ谷さんが請け負った母の借金を返す為なのだから。
「何だよ、俺が買うんだからいいだろう。 こんなバックの一つや二つ大した値段じゃない」
「伊織さんに買って頂く理由がありません…」
「君は俺の妻なんだからバックの一つや二つ買って貰うのに理由なんていらないだろう」
「と、とにかくバックは持っているのでいらないですッ」



