「この家は手放せない…。おばあちゃんがずっと大切にしてきたものじゃない…」
「そんな事言っても…このお家を売らなくちゃ借金返せないのよ…。
助けてよ、真凛ちゃん…」
「絶対嫌。この家だけは…この家だけは手放したくないの!」
ここは私が生まれ育った家だ。 祖父や祖母との思い出が沢山ある。
ほんのちょっとだけど、母や父との思い出だってある。
何より祖母がこの家を誰よりも大切にしてきたのを私は知っているのだ。 そう簡単に手放せるものではない。
母の自分勝手さには慣れていたつもりだったけれど、沸々と怒りがわいてくる。
男に騙されるのはこれで何回目だろう。祖父が生きていた頃はまだそれなりに裕福だったので、一人娘の母はとても甘やかされて育った。
自由奔放で我儘でお姫様のような人。悪い人ではない。 だからこそ本気で恋をして、男に騙される。
そんな母を助け続けていたのはまだまだ元気だった祖父母だった。 しかし祖父は数年前に病気で亡くなり、祖母も今は老人ホームにいる。
母を守れるのは今は私しかいない。



