【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


不機嫌になりながらも玄関まで出て行った桃菜は、最近伊織さんの事を’伊織ん’と呼ぶ。
彼女の順応能力の速さには目を見張るものがある。

伊織さんからいつの間にか、伊織くんになって、果てには伊織んだ。 全くどっちが公式な夫婦なのか分かったもんじゃない。

けれど人の懐にするりと入っていける桃菜の性格を羨ましく思う時もある。 私には絶対に出来ない事だ。

「では、真凛さんもゆっくりして下さい。」

「けれど…小早川さん、本当にいいんですか?折角の休日なのに…」

にこりといつもの営業スマイル。 意外に桃菜と二人で出掛けられるのが楽しみなのかな?
まさか小早川さんのタイプって…

女性はもっぱら苦手だけど、男性には直ぐに好かれる桃菜だし、見た目も性格も可愛らしいから小早川さんが好意を抱いても不思議ではない。

「大丈夫です。うちには我儘な妹が三人います。 ああいう感じの方の扱いには慣れていますので」

’早くしてよぉー’と玄関から桃菜の甘ったるい声が響く。 小早川さんは笑顔の裏に少しだけ殺気立ったオーラを醸し出す。

それを見て思わずぶるりと震えあがる。