【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない


嗚咽を上げる桃菜の背中をポンポンと叩くと、私の胸の中桃菜が顔を上げる。

両腕を組みながら顎をしゃくり上げる伊織さんを見上げ、桃菜はころりと人懐っこい笑顔を見せた。
胸がざわつく。

「真凛ちゃん、こちらは?」

「えっと…市ヶ谷 伊織さんです」

「伊織さん?」

桃菜の声がワントーン上がる。  こそっと小さな声で桃菜が私に耳打ちをする。

「真凛ちゃんのお母さんが言っていた。 真凛はボヤージュの社長の息子さんと結婚したのよ~っておばさんすっごく嬉しそうだった」

お母さんの事だから言わないでいるという選択肢はなかったと思ったが、よりにもよって桃菜に言っちゃうなんて。

「真凛ちゃんったら親友の桃菜に何も言わずに結婚しちゃうなんて酷いよぉ……。
桃菜も結婚式に行きたかったのにぃ」

拗ねた口ぶりでそう言った桃菜を前に頭痛が止まらない。 これは面倒な事になりそうだ。
そもそも私達って親友だったっけ?!

「結婚式はごく身内だけで挙げたのよ」